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    自民党改憲案に反対する憲法研究者声明

 

はじめに

  2018年3月25日、自由民主党は党大会を開き、党の憲法改正推進本部がまとめた条文案(「たたき台素案」)に基づいて①自衛隊の憲法9条への明記、②緊急事態条項、③参議院の合区解消、④教育の充実の追加の4つの項目で憲法改正を進めていくことを確認した。

わたしたち憲法研究者は、森友学園問題における公文書改ざん問題が明らかになった現在、自民党には、憲法改正案を提起する資格がないと強く主張する。昨年の衆議院議員総選挙がおこなわれた時には、すでに改ざんが行われていたのである。改ざんの事実が明らかになっていれば選挙結果も異なっていた可能性がある。さらにいえば、国会は憲法改正を進めるよりも先に、森友学園問題について明らかにする責務がある。憲法は、政治家をはじめとする公務員に対し、国家権力を真に国民のために使うよう義務を課す。森友学園問題では、まさに、国家権力が権力者のために使われたのではないかが疑われているのである。その全貌の解明なくして進められる憲法改正は、まさに、権力者のための憲法改正にならざるをえないであろう。

 次に、わたしたちは、日本国憲法が制定以来日本国の基軸として機能し、日本国民の幸福な生活のために役立ってきたと考える。日本を始め、立憲民主主義に基づく国家は憲法を前提として運営されるのだから、政治をおこなう上で具体的な不都合がないかぎり、憲法は変更されるべきではない。また、説得力ある明確な理由なくして憲法を変更することは、国民に対して思わぬ弊害をもたらす危険性もある。

 以下で、自民党による憲法改正提案がもつ問題点を指摘する。

 

9条改憲案の問題点

①の自衛隊を明記するという9条改正については、2項を残した上で、9条の2として、「必要な自衛の措置」のための「実力組織」として「自衛隊を保持する」という条文を追加するという案が有力視されている。

自衛隊を憲法で承認し、正式に合憲化することは、自衛隊員のためにも良いことだと考える人もいるかもしれないが、それは全く反対である。というのは、すでに、2014年7月1日の閣議決定によって、憲法解釈が一方的に変更され、この閣議決定にしたがって、2015年9月19日に安保法制が制定されているからである。自衛隊の憲法での承認は、安保法制によって集団的自衛権の行使が認められた自衛隊の承認を意味することに注意しなければならない。

集団的自衛権は、アメリカのベトナム戦争や旧ソ連のアフガニスタン侵攻など、強国による無用な軍事介入に利用されてきた。安保法制は、自衛隊がそのような軍事活動に参加することを意図するものである。戦力の保持を否定する現行9条の下では、安保法制が合憲と認められる余地はない。ところが、自衛隊を憲法に明記することになれば、安保法制を違憲とはいいづらくなる。つまり、憲法への自衛隊の追加は、安保法制の合憲化が真の目的なのである。自民党の9条改正の提案が実現すれば、自衛隊員は、危険な集団的自衛の仕事を正式にさせられることになるだろう。

 ところで、今回、自民党の憲法改正推進本部は、従来の政府解釈で採用されていた「必要最小限度の実力」ではなく、「必要な自衛の措置」を認める案をたたき台として打ち出していくようである。「必要最小限度」という文言がなくなることで自衛隊の活動に歯止めがかからなくなり、「必要な自衛の措置」には集団的自衛権の行使が当然に含まれることになる。したがって、この条文は、戦力の不保持、交戦権の禁止を定めた9条2項と正面から衝突する。戦力をもたないと宣言しながら、自衛のためには集団的自衛権行使を含む「実力」を行使できるというのである。この改憲によって、憲法9条2項は、全く意味をなさなくなるだろう。

他にも、自衛隊法7条では、憲法72条や内閣法5条の規定を受けて、「内閣総理大臣は、内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権を有する」としているが、今回の自民党の提案では「内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする」としているため、行政権の主体が内閣であるという日本国憲法の構造と矛盾するおそれがある。この点で、自民党の9条改正の提案は、内閣総理大臣の下に、立法、行政、司法から独立した「防衛」という新たな国家作用を創設することになるのではないかという深刻な問題を内に含んでいるのである。

 

緊急事態条項の問題点

  ②の改正については、国会議員の選挙が困難な場合における任期延長と、災害において法律に代わる政令を認める真の意味での「緊急事態条項」との二つが提示されている。

  前者については、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」が仮に起ったとしても、国政選挙全体を不能にするということなどは通常考えられない。国会議員の選挙は、国民の意見を国政に反映させるための重要な機会である。安易に憲法で任期の延長を認めるべきではない。

  後者は、「大地震その他の異常かつ大規模な災害」の際に、内閣が法律と同様の効力をもつ政令を制定できるとする。しかし、災害対策基本法など災害に対処するための法律はすでに存在している。これまでの災害の事例をみても、内閣が立法権をもっていればより効果的な災害対処ができたとはいえないだろう。

  また、緊急事態を憲法で承認する場合、自民党案のように、行政権が立法権を無条件に行使できるような規定にすることは大変危険である。ナチスの独裁は、ワイマール憲法の緊急事態条項を悪用することで可能になったということを思いおこす必要があるだろう。

  さらに、自民党案の緊急事態条項は、9条改正と密接な関係がある。今回の自民党案では「大地震その他の異常かつ大規模な災害」となっているが、国民保護法には「武力攻撃災害」への対応規定があり、武力攻撃と災害とが明確に区別されていない。したがって、自民党提案にある緊急事態条項があれば、他国と武力衝突が起きたときに、政令のみで国民の権利を制限することができるようになる。緊急事態条項は、9条改正とともに、戦争を準備し、そのために国民を動員することを可能にするのである。

 

参議院の合区解消規定と教育の充実規定の問題点

③の合区の解消には参議院選挙区の定数を増やしたり、選挙区選出をやめて比例代表に一本化するという方法もあり、必ずしも憲法改正による必要はない。

また、合区を解消するために憲法改正が必要だとしても、それは、47条を変更するだけではすまないはずである。そもそも、この問題は、参議院に「地方代表」的な性格を与えようとしたとき、憲法43条の「全国民の代表」規定と矛盾するという大きな論点と関わるものである。また、参議院に「地方代表」的な性格を明確に与えることは、衆議院と参議院との関係をどう考えるべきかという、二院制に関する大きな問題に発展せざるをえない。さらに、具体的に提案された条文をみると、衆議院議員の投票価値の平等の憲法判断に影響を与える可能性もある。これらのことを考慮せず、合区を解消するために憲法47条を変えようというのは、いかにも場当たり的な発想であり、国民に提案されるに値するだけの真摯な検討を経ていないと言わざるを得ない。

④の教育の充実に関しては、経済的理由による教育上の差別の禁止や国の教育環境整備義務は、現行の26条から当然に導かれる内容であり、憲法を改正する必要はない。反対に、国の義務を憲法に明示することによって、教育内容に対する国の不当な干渉を導く危険性もある。ちなみに当初議論されていた、高等教育の無償化も、その気さえあれば法律で十分実現可能である。また、憲法89条の私学助成問題解消のための改正も、これまで憲法学界も政府も解釈で対応し、大きな問題となっていたわけではない。

 

おわりに

 憲法改正の提案は、真摯になされなければならない。自民党の憲法改正の提案は、内容においても、また、時期的にも、国民に提案されるだけの真剣さが足りないと言わざるをえない。わたしたちは、自民党の憲法改正の提案に強く反対する。

 

2018年4月10日

 

 

                    署名者総数 136名       2018年4月17日 現在

 

  あ 愛敬 浩二(名古屋大学教授)         青井 未帆(学習院大学教授)

    青木 宏治(高知大学名誉教授)        浅野 宜之(関西大学教授)

    麻生 多聞(鳴門教育大学准教授)    足立 英郎(大阪電気通信大学名誉教授)

    飯島 滋明(名古屋学院大学教授)    井口 秀作(愛媛大学教授)

  い 石川 多加子(金沢大学准教授)        石川 裕一郎(聖学院大学教授)

    石塚 迅(山梨大学准教授)             石村 修(専修大学名誉教授)

    井田 洋子(長崎大学教授)             伊藤 雅康(札幌学院大学教授)

    稲   正樹(元国際基督教大学教員)     井端 正幸(沖縄国際大学教授)

    岩本 一郎(北星学園大学教授)

  う 上田 勝美(龍谷大学名誉教授)         植野 妙実子(中央大学教授)

    植松 健一(立命館大学教授)          植村 勝慶(國學院大學教授)

    右崎 正博(獨協大学名誉教授)         浦田 賢治(早稲田大学名誉教授)

  え 榎   透(専修大学教授)                     榎澤 幸広(名古屋学院大学准教授)

  お 大石 泰彦(青山学院大学教授)         大内 憲昭(関東学院大学教授)

    大久 保史郎(立命館大学名誉教授)       大河内 美紀(名古屋大学教授)

    太田 裕之(同志社大学教授)          大津 浩(明治大学教授)

    大野 友也(鹿児島大学准教授)         大藤 紀子(獨協大学教授)

    岡田 健一郎(高知大学准教授)         岡田 信弘(北海学園大学教授)

    奥野 恒久(龍谷大学教授)              小栗 実(鹿児島大学名誉教授)

    小沢 隆一(慈恵医科大学教授)

  か 柏﨑 敏義(東京理科大学教授)         加藤 一彦(東京経済大学教授)

    金井 光生(福島大学准教授)          金澤 孝(早稲田大学准教授)

    金子 勝(立正大学名誉教授)          上脇 博之(神戸学院大学教授)

    河合 正雄(弘前大学講師)              河上 暁弘(広島市立大学准教授)

    川畑 博昭(愛知県立大学准教授)

  き 菊地 洋 (岩手大学准教授)             北川 善英(横浜国立大学名誉教授)

    木下 智史(関西大学教授)              君島 東彦(立命館大学教授)

    清末 愛砂(室蘭工業大学准教授)

  く 倉田 原志(立命館大学教授)           倉持 孝司(南山大学教授)

  こ 小竹 聡(拓殖大学教授)                  後藤 光男(早稲田大学教授)

    小林 武(沖縄大学客員教授)           小林 直樹(姫路獨協大学准教授)

    小松 浩(立命館大学教授)               近藤 敦(名城大学教授)

  さ 斉藤 小百合(恵泉女学園大学教授)      笹沼 弘志(静岡大学教授)

    佐藤 信行(中央大学教授)                       澤野 義一(大阪経済法科大学教授)

  し 志田 陽子(武蔵野美術大学教授)       清水 雅彦(日本体育大学教授)

    清水 睦 (中央大学名誉教授)                神   陽子

  す   菅原 真(南山大学教授)                           杉原 泰雄(一橋大学名誉教授)          

   隅野 隆徳(専修大学名誉教授)

  せ 清野 幾久子(明治大学教授)         芹澤 齊(青山学院大学名誉教授)

  た 髙佐 智美(青山学院大学教授)           高橋 利安(広島修道大学教授)

    高橋 洋(愛知学院大学教授)            竹内 俊子(広島修道大学名誉教授)

    竹森 正孝(岐阜大学元教員)            田島 泰彦(元上智大学教授)

    多田 一路(立命館大学教授)            只野 雅人(一橋大学教授)

    建石 真公子(法政大学教授)

  ち 千國 亮介(岩手県立大学講師)

  つ 塚田 哲之(神戸学院大学教授)

  て 寺川 史朗(龍谷大学教授)

  な 内藤 光博(専修大学教授)                 長岡 徹(関西院大学教授)

    中川 律(埼玉大学准教授)                 中里見 博(大阪電気通信大学教授)

    永田 秀樹(関西学院大学教授)            中富 公一(岡山大学)

    長峯 信彦(愛知大学教授)                 中村 安菜(日本女子体育大学講師)

    永山 茂樹(東海大学教員)                 成澤 孝人(信州大学教授)

    成嶋 隆(獨協大学教授)

  に 二瓶 由美子(桜の聖母短期大学元教授)   丹羽 徹(龍谷大学教授)

  ね 根森 健(神奈川大学特任教授)

  は 畑尻 剛(中央大学教授)          濵口 晶子(龍谷大学准教授)

  ひ 廣田 全男(横浜市立大学名誉教授)

  ふ 藤井 正希(群馬大学准教授)        福岡 英明(國學院大學教授)

    藤野 美都子(福島県立医科大学教授)       古川 純(専修大学名誉教授)

  ま 前原 清隆(元日本福祉大学教授)      松原 幸恵(山口大学准教授)

  み 水島 朝穂(早稲田大学教授)        三宅 裕一郎(日本福祉大学教授)

    宮地 基(明治学院大学教授)        三輪 隆(元埼玉大学教員)

  む 村上 博(広島修道大学教授)        村田 尚紀(関西大学教授)

  も 元山 健(龍谷大学名誉教授)        森   英樹(名古屋大学名誉教授)

    門田 孝(広島大学教授)

 や  安原 陽平(沖縄国際大学講師)          山内 敏弘(一橋大学名誉教授)   

    山崎 栄一(関西大学教授)

  ゆ 結城 洋一郎(小樽商科大学名誉教授)

  よ 横尾 日出雄(中京大学教授)         横田 力(都留文科大学)

    吉田 栄司(関西大学教授)                          吉田 仁美(関東学院大学教授)                         吉田 善明(明治大学名誉教授)

  わ 若尾 典子(佛教大学教授)          脇田 吉隆(神戸学院大学准教授)

    和田 進(神戸大学名誉教授)         渡辺 治(一橋大学名誉教授)

    渡辺 洋(神戸学院大学教授)         渡邊 弘(鹿児島大学准教授)

 

   匿名希望 4名   

衆議院における質問時間配分の変更に反対する声明ー憲法ネット103有志 

              2017.11.28

臨時国会冒頭解散に対する憲法研究者有志の緊急声明

       衆議院における質問時間配分の変更に反対する声明ー憲法ネット103有志

 

 2017年10月におこなわれた衆議院解散総選挙の結果、第4次安倍内閣が発足した。こうして召集された特別国会において、政権与党は、国会での野党の質問時間を減らし与党の質問時間を増やせと言い始めている。時間配分はかつて与党4対野党6だったが、民主党政権時の2009年に野党・自民党の要求で、現在の2対8となった経緯がある。与党の要求の結果、11月15日の衆議院文部科学委員会においては、1対2の時間配分で質問がおこなわれた。さらに、27日と28日におこなわれる予定の衆議院予算委員会においては、5対9の時間配分で質問がおこなわれることが決定された。

 しかし、この質問時間配分の見直しは、日本国憲法の要求する議院内閣制の原理に照らしたとき、非常に大きな問題をはらむものである。

 議院内閣制とは、行政権が立法権のコントロールを受けながら国政を担う統治構造である。行政権が法律に基づいて行使されなければならないのは、全国民の代表(43条)たる国会議員によって構成される国会が制定する法律は、国民の利益にかなったものであるとの想定があるからである。その法律を執行するのは行政権たる内閣である。立法権を有する国会は、内閣が適正に行政権を行使しているかどうか、チェックをおこなう権限を有する。国会による行政監督権は、立法権が国会に属し、行政権が法律に拘束される以上、当然の帰結なのである。

 このコントロールの核心が説明責任である。日本国憲法66条3項は、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」と規定し、この原理を明文で規定している。

この原理には、国民主権の実質化という側面がある。法律を作る国会は、選挙を通じて国民に対し説明責任を負う。そして、行政を担う内閣は国民代表機関たる国会に対して説明責任を負うことによって、国民に対し説明責任を負うのである。

 近代に成立したこの憲法構造は、政党が出現した現代国家において変容を蒙る。政党が有権者の直接的な要求を汲み取って政権を握り、福祉国家を実現していく際に、個々の国会議員の独立が失われ、国会の過半数の議席を得た政党に支えられた強力な内閣が成立するからである。ここにおいて、内閣のコントロールという国会の役割は野党が担うことになった。

 20世紀後半の西欧において実現した二大勢力による政権交代は、行政権を担う政権与党と国会を足場に政権与党を批判する野党が、攻守を入れ替えながら、互いの政策を実現するものであった。この憲法構造において、行政権と立法権の二つを支配する政権与党が専制化しないためにも、野党が国会の機能を引き継ぐことが重要であった。すなわち、現代の議院内閣制における政権は、野党議員の質問に真摯に答え、国会に説明責任を果たすことによってこそ、その正当性を獲得するのである。

 特に、日本においては、与党は政府法案提出前の段階において内部で十分に吟味・審議できるのに対し、野党はそこに参加することも情報共有もできない。したがって、野党による批判的吟味を含む適切なチェックにこそ国会論戦の意義があり、そこに時間はしっかりと割かれなければならない。これこそが、行政権力を立法府が適正に監視・チェックするという「議院内閣制」の原理から導かれる帰結である。

 このように考えるならば、政権交代が実現されるようになった日本の国会において、与野党の質問時間の配分が2対8とされたことは、理に適ったことである。与党は行政権を担うことによって、国会に対して説明責任を負っているのである。行政権を担う与党が、国会にしか足場のない野党と同等の質問時間を要求するには、きちんとした理由が必要であろう。

 与党の大義名分は、党の若手議員の活躍の場を広げるためだという。しかし、そうであれば、与党に配分されている時間を使って、若手議員に優先的に質問させればよいだけの話である。それでも足りないというのであれば、国会の会期を十分とればよい。

 そもそも、これまで安倍政権は、国会を軽視してきた。2015年には、新安保法制を制定したのち、憲法53条による国会議員の要求を無視して臨時会を召集しなかった。2017年には同様の要求を3ヶ月間放置したあげく、臨時会召集と同時に衆議院を解散した。その安倍政権が、自党の若手議員の質問のために野党の質問時間を削るというのである。その主張を額面通り受け取ることはできない。野党の質問時間を削減することによって、森友問題、加計問題についての説明責任を回避することに本来の目的があるのではないかと疑わざるを得ない。

 以上のように、野党に十分な質問を確保することは、憲法の要求である。憲法上のルールは、政党の一時的な都合で左右されてはならない。野党の時には2対8の割合で確保されていた質問時間配分を、自分たちが与党になったとたんに改めるということは、与党であるからこそ許されない。

 わたしたちは、憲法を学ぶ専門家として、今回の時間配分の見直しは、日本国憲法の議院内閣制の原理に反すると考える。日本国憲法の議院内閣制は、野党議員の質問に真摯に答え、国会に対して説明責任を十分に果たす、透明性のある行政権の行使を要求している。きちんとした正当化理由が示されない限り、2対8の質問時間の配分は変更すべきではない。

                                                                                            以上

 

憲法ネット103有志総数59名(2017.12.3現在):

 

愛敬浩二(名古屋大学)麻生多聞(鳴門教育大学)足立英郎(大阪電気通信大学名誉教授)

飯島滋明(名古屋学院大学)井口秀作(愛媛大学)石川裕一郎(聖学院大学)

石村修(専修大学名誉教授)稲正樹(元国際基督教大学)植野妙実子(中央大学)

植松健一(立命館大学)浦田一郎(一橋大学名誉教授、元明治大学)榎澤幸広(名古屋学院大学)

大内憲昭(関東学院大学)大久保史郎(立命館大学名誉教授)大藤紀子(獨協大学)

岡田健一郎(高知大学)岡田信弘(北海学園大学)奥野恒久(龍谷大学)押久保倫夫(東海大学)

柏崎敏義(東京理科大学)上脇博之(神戸学院大学)河上暁弘(広島市立大学)菊地洋(岩手大学)

北川善英(横浜国立大学名誉教授、愛知淑徳大学)清末愛砂(室蘭工業大学)倉持孝司(南山大学)

小林武(沖縄大学)小林直樹(姫路獨協大学)近藤敦(名城大学)斎藤小百合(恵泉女学園大学)

笹沼弘志(静岡大学)志田陽子(武蔵野美術大学)清水雅彦(日本体育大学)高佐智美(青山学院大学)高橋利安(広島修道大学)只野雅人(一橋大学)多田一路(立命観大学)建石真公子(法政大学)

千國亮介(岩手県立大学)塚田哲之(神戸学院大学)内藤光博(専修大学)中川律(埼玉大学)

長峯信彦(愛知大学)中村安菜(東京女子体育大学)永山茂樹(東海大学)成澤孝人(信州大学)

成嶋隆(獨協大学)丹羽徹(龍谷大学)根森健(新潟大学名誉教授、神奈川大学)藤井正希(群馬大学)藤野美都子(福島県立医科大学)前原清隆(日本福祉大学)松原幸恵(山口大学)

三宅裕一郎(三重短期大学)元山健(龍谷大学名誉教授)森英樹(名古屋大学名誉教授)

横尾日出雄(中京大学)横田力(都留文科大学)若尾典子(佛教大学)

2017.9.27

  1. 安倍首相は、9月28日の臨時国会の冒頭に衆議院を解散すると表明した。この結果、10月22日に衆議院総選挙が行われることとなった。わたしたち憲法研究者有志は、この解散・総選挙にいたる手順が、憲法の規定する議会制民主主義の趣旨にまったくそぐわないものであること、今後の衆議院総選挙とその結果が、憲法と立憲主義を危機にさらすものであること、主権者がこの総選挙の意味を充分に認識し、メディアがそれを公正な立場から報道することが必要であること。以上の諸点に関して、ここに緊急声明を発表する。
     

  2. 臨時国会の召集請求が長く放置されてきたこと
    今回の臨時国会の開催は、6月22日以来、野党が開催を求めていたものである。日本国憲法53条は「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」と規定している。
    しかしながら安倍内閣は、その要求を無視し、臨時国会の開催をいままで先送りしてきた。正当な理由なく臨時会の召集を決定しなかったことは、野党による国会開催の要求権を事実上奪うものであり、少数派の意見も反映させて国政を進めるという議会制民主主義の趣旨に反する。
     

  3. 森友・加計問題を国会の場で明らかにしない点について
    政治の私物化が濃厚に疑われる森友・加計問題を国会で明らかにすることは、主権者国民の希望であり、野党の求めていたことである。しかし臨時国会冒頭で衆議院を解散し、野党からの質問もいっさい受けないという内閣の姿勢は、民主主義の名に値する議会運営とはまったくかけ離れたものとなっている。
    内閣は、国会に対して連帯して責任を負う(憲法66条3項)という議院内閣制の原則からすれば、安倍内閣および与党は、森友・加計問題について、早急に国会に資料を提出し、参考人・証人の喚問に応じなければならないはずである。
    今回の解散は、「丁寧に説明をする」という首相自身の声明にも反する。実質審議なしの冒頭解散は、首相が疑惑追及から逃げ切り、国民に対する自らの約束を公然と破る暴挙に出たと言わざるを得ない。
     

  4. 内閣の解散権の濫用について
    日本国憲法の定める解散権の所在および憲法上の根拠については、衆議院が内閣不信任を議決した場合・信任を否決した場合の69条の場合に限るとする説と、内閣の裁量によって7条を根拠に解散を行いうるとする説がある。しかし7条根拠説であっても、内閣の解散権行使は重大な権力行使であるため、党利党略に基づく自由裁量であってはならず、一定の限界があるという点では一致している。衆議院の解散は、重要な問題について国民の意思を問うための機会としてなされるべきであって、国民の意思表明を求める必要があり、また選挙を通してその意思表明が行われる条件が整った場合に限られるのである。この点、今回の解散・総選挙では、解散を事実上決定したのちに選挙の争点を決めるといった、泥縄式に争点が設定されたものであり、国民は何を基準に投票を決めれば良いのかがわかりにくい。このような解散権行使は濫用であって、憲法7条の趣旨に違反するものである。首相の猛省を促したい。
     

  5. 内閣総理大臣の「専権事項」論が誤りであることについて
    なお、内閣の衆議院の解散権については、内閣総理大臣の専権事項であるとして、安倍首相の意思を尊重すべきだという議論がある。しかし憲法7条に基づく解散は、内閣の助言と承認によって天皇が行う国事行為である。したがって解散の実質的決定権は,内閣総理大臣ではなく、あくまで内閣という合議体に帰属するものである。
     

  6. 改憲論議のあり方について
    また、今回の解散を受けて始まる選挙においては、改憲問題が主な争点の一つになると伝えられている。近年、一部政治家などの間で、現在の政治、社会のさまざまな問題の原因をきわめて乱暴にあたかも憲法の規定するところに基づくものであるかのように描き、まるで、憲法を変えることで、人々の不安や不満を解決できるかのように煽るといった、ためにする改憲論、情緒的な改憲論が広がりつつある。そのような改憲論に対する理性的な検討や批判は、しばしば「現実を知らない理想論」「世間知らずの学者の議論」だと揶揄され罵倒されることも増えている。
    このような傾向は未だ支配的ではない。しかしこれを放置することは憲法政治にとってのみならず、この国の自由で伸びやかな社会と平和の将来にとって極めて危険である。このたびの選挙において、そのような傾向が強まることを私たちは警戒し、こうした傾向や「流れ」に抗して、静かに、しかしきちんと私たち憲法研究者も声を挙げていきたいと思う。
     

  7. 9条3項加憲論を選挙の公約に出してくること
    安倍首相は、自民党の公約に、憲法9条3項に自衛隊を明記する規定を追加する改憲を掲げる予定と報じられている。わたしたちは、この改憲は日本国憲法の平和主義に対する大きな脅威であると考える。
    同時に、このような公約が、与党内における充分な議論を経ず、文言の精査も行われないままで、国民の「判断」に付されようとしていることについて、立憲主義の立場からの危惧を覚えざるをえない。今後、数を頼りに憲法審査会での議論を強引にすすめ、本会議での乱暴な審議を経て、予定した時期までに国会による発議を成し遂げることに邁進するというのであれば、なおさらである。憲法は国の最高法規であり、その規定は、他の法律や命令などの在り方を規定するものである。改憲はそれをどうしても必要とする事実が存在し、また改憲によってその目的が達成される場合に限って行われるべきである。9条に3項を加える議論は、どのような目的で行われ、その結果どういったことが実現するのか。まったく議論されていない中での選挙における公約化は、憲法の重みをわきまえない、軽率な改憲ごっことでも評すべきものである。
     

  8. ところで、いま日本のマスメディアが、現実に正面から向かいあって深く掘り下げることを曖昧にし、ただ目新しいものを追いかけ、それを無批判に報道する傾向を強めていることは、われわれ憲法研究者が憂慮するところである。しかし、そのような中にあっても多くのジャーナリストが批判的観点を忘れず、日々努力していることを私たちは知っている。今度の選挙にあたって、自由で闊達な報道がなされることを私たちは強く期待するものである。
     

  9. 安倍内閣は、秘密保護法・安保法・共謀罪法などの重要法案において、憲法違反の疑いが指摘されていたにもかかわらず、前例のない乱暴な国会運営によって、それらを成立させてきた。また自衛隊PKO日誌問題や森友・加計事件などにおいては、国会と国民に情報を適切に提供することや、公開の場で真実を究明することを妨げてきた。
    今回の選挙は、憲法政治をさらに危険な状況に陥らせるおそれがある。しかし、それと同時に、市民の努力によって憲法政治を立て直す大きな可能性をもつものでもある。その意味では、主権者としての見識と力量を発揮するチャンスが到来したというべきである。
    憲法を擁護するため、わたしたち国民に、「不断の努力」(憲法12条)、「自由獲得の努力」(憲法97条)が、いまほど強く求められたことはない。しかしその「努力」は必ずや実を結ぶであろう。そのことは歴史的事実であり、また私たちはそのことを信じている。

 

以上

憲法研究者有志一同(あいうえお順) 総数99名(2017.10.28現在)

 

愛敬 浩二(名古屋大学)
青井 未帆(学習院大学)
青木 宏治(高知大学名誉教授)
浅野 宜之(関西大学)
麻生 多聞(鳴門教育大学)
足立 英郎(大阪電気通信大学名誉教授)
飯島 滋明(名古屋学院大学)
井口 秀作(愛媛大学)
石川 多加子(金沢大学)
石川 裕一郎(聖学院大学)

石埼 学(龍谷大学)
石村 修(専修大学名誉教授)

井田 洋子(長崎大学)
稲 正樹(元国際基督教大学)
植野 妙実子(中央大学)
植松 健一(立命館大学)
植村 勝慶(國學院大學)

浦田 一郎(一橋大学名誉教授)
浦田 賢治(早稲田大学名誉教授)
榎澤 幸広(名古屋学院大学)
江原 勝行(岩手大学)
大内 憲昭(関東学院大学)
大久保 史郎(立命館大学名誉教授)
大津 浩(明治大学)
大野 友也(鹿児島大学)
大藤 紀子(獨協大学)
岡田 健一郎(高知大学)
岡田 信弘(北海学園大学)
奥野 恒久(龍谷大学)
小栗 実(鹿児島大学名誉教授)
小沢 隆一(慈恵医科大学)
押久保 倫夫(東海大学)

 

柏﨑 敏義(東京理科大学)

金子 勝(立正大学名誉教授)
上脇 博之(神戸学院大学)

河合 正雄(弘前大学)
河上 暁弘(広島市立大学)

川畑 博昭(愛知県立大学)
菊地 洋(岩手大学)
北川 善英(横浜国立大学名誉教授)

木下 智史(関西大学)
君島 東彦(立命館大学)

清末 愛砂(室蘭工業大学)

倉持 孝司(南山大学)
後藤 光男(早稲田大学)

小林 武(沖縄大学)
小林 直樹(姫路獨協大学)
小林 直三(名古屋市立大学)
小松 浩(立命館大学)
近藤 真(岐阜大学)


齋藤 和夫(明星大学)

斉藤 小百合(恵泉女学園大学)

笹沼 弘志(静岡大学)
澤野 義一(大阪経済法科大学)
志田 陽子(武蔵野美術大学)
清水 雅彦(日本体育大学)
菅原 真(南山大学)
杉原 泰雄(一橋大学名誉教授)

清野幾久子(明治大学)

高佐 智美(青山学院大学)
高橋 利安(広島修道大学)
高橋 洋(愛知学院大学)
竹森 正孝(岐阜大学名誉教授)
多田 一路(立命館大学)
建石 真公子(法政大学)
千國 亮介(岩手県立大学)

塚田 哲之(神戸学院大学)
寺川 史朗(龍谷大学)

長岡 徹(関西学院大学)
中川 律(埼玉大学)
中里見 博(大阪電気通信大学)
永田 秀樹(関西学院大学)

長峯 信彦(愛知大学)
永山 茂樹(東海大学)
成澤 孝人(信州大学)
成嶋 隆(獨協大学)
西原 博史(早稲田大学)
丹羽 徹(龍谷大学)
根森 健(新潟大学フェロ-、神奈川大学)

藤井 正希(群馬大学)

藤野 美都子(福島県立医科大学)

前原 清隆(日本福祉大学)
松原 幸恵(山口大学)
宮井 清暢(富山大学)
三宅 裕一郎(三重短期大学)
三輪 隆(埼玉大学名誉教授)
村上 博(広島修道大学)
村田 尚紀(関西大学)
本 秀紀(名古屋大学)
元山 健(龍谷大学名誉教授)
森 英樹(名古屋大学名誉教授)

山内 敏弘(一橋大学名誉教授)
横尾 日出雄(中京大学)
横田 力(都留文科大学)

吉田 栄司(関西大学)
吉田 善明(明治大学名誉教授)

若尾 典子(佛教大学)
和田 進(神戸大学名誉教授)
渡邊 弘(鹿児島大学)

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